子爵家に臨時の侍女として雇われているロニには、ある特別な役目があった。それは雨の日にのみ、お仕えする令嬢の手紙を婚約者候補のもとへ届けるというもの。憂鬱である雨の中で届く手紙は不思議と受け取る者の心をほどき、これまで幾人もの恋を静かに後押ししてきた。しかし恋の成就は、ロニの役目の終わりを意味する。今回もそれで終わるはずだった。だが、手紙の届け先である伯爵家の執事・ファウスとの会話が彼女の人生に小さな変化を生んだ。やがてそれはロニ自身の物語となって歩き出す。これは花の都を長靴で歩くロニの、小さな恋物語。